人はいさ(紀貫之)

短歌 に関する記事

人はいさ 心も知らず 故郷は
花ぞ昔の かに匂ひける 紀貫之

■ 訳

あなたはどうなのか分からないのですが、人の心がたとえ移り変わってしまったとしても、慣れ親しんだこの場所で嗅いだ花の香りは、以前のものと変わりありませんでしたよ。

■ 解説

「人はいさ」は「あなたはどうだろうか?」といった意味に、「心」は気持ちなど、「昔の香に匂ひける」は、「昔と同じ香りに匂う」となります。
ここでの花は古今和歌集の題名から梅の花のことを指します。
後述する古今和歌集の題目から、久しぶりに故郷行ったら、家の主人は私のことを忘れてしまったようだったので、この歌を詠んだのでしょうか。

■ この詩が詠まれた背景

この詩はは古今和歌集 第六巻(春歌上 42首目)、小倉百人一首の第三十五首目に収録されています。
古今和歌集の題名に、「はつせにまうづるごとにやどりける人の家に、ひさしくやどらで、ほどへてのちにいたれりければ、かの家のあるじ、かくさだかになむやどりはあるといひいだして侍りければ、そこにたてりけるむめの花ををりてよめる」と書かれていることから、「初瀬(現在の奈良県桜井市)(にある長谷寺)に参拝する度に泊まっていた家があって、しばらくそこには行ってなかったのだけれど、久しぶりに訪れてみると、その家のご主人が「ここに泊まるところがあるんだからとまったら?」と言ったので、傍に立っていた梅の枝を折って詠んだ」ようです。

■ 豆知識

作者は紀貫之(きのつらゆき)で、三十六歌仙の一人で、古今和歌集の撰者の一人です。
また、同じく三十六歌仙の一人で百人一首33番目に収録されている紀友則は従兄弟に当たります。

紀貫之は土佐日記の作者として非常に有名で、土佐日記に使われた仮名文字は、後の女流文学に大きな影響を与えたといわれています。
また、なぜ土佐日記に仮名文字を使ったかと言う説がいくつかあり、最も有力と思われているものとして、当時出来たばかりのひらがなの使いやすさを検証していた、というものがあります。
もし紀貫之がいなければ、ひらがなが日常的に使われることは無かったかもしれません。

作者不明といわれる竹取物語の作者も、文の巧みさなどから、紀貫之の作品ではないかといわれています。

幼名は「阿古屎」(あこくそ)です。
当時、不浄なものには呪力が宿り、不浄なものを名前につけることで邪悪を退けたという風潮があった、と荒俣宏氏が発表しています。
なお、同様の名前として、藤原小屎(ふじわらのおくそ)という名の桓武天皇夫人が居ます。

■ 関連地図


大きな地図で見る

コメント

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。


コメントを書く

お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: