かくとだに(藤原実方朝臣)

短歌 に関する記事

かくとだに えやはいぶきの さしも草
さしも知らじな 燃ゆる思ひを 藤原実方朝臣

■ 訳

伊吹山に芽吹くヨモギでさえ、さすがに知らないでしょう。ジリジリと燃えるような(貴女への)この想いは。

■ 解説

「かくと」は、このように、「だに」は、〜でさえ、「えやは」は〜ができない(反語)、「いぶきの」は滋賀県の伊吹山(ヨモギの名産地と知られ、歌枕)の、「さしも草」はヨモギ、「さしも知らじな」はさすがに知らないでしょう、「燃ゆる思ひを」はヨモギをもぐさ(艾)として使う際の燃える様子とかけた言葉となります。

■ この詩が詠まれた背景

この詩は後拾遺和歌集 第十一巻(恋一 612首目)、小倉百人一首の第五十一首目に収録されています。
題には「女にはじめてつかはしける」(女性にはじめて手紙に送った)と書かれています。

■ 豆知識

作者は藤原実方(ふじわらのさねたか)で、中古三十六歌仙の一人です。
清少納言と親交があったことが枕草子に記載されています。

若い頃は順風満帆で出世街道を邁進していましたが、些細な喧嘩から左遷させられてしまいます。

ある日、花見を行った際、突然のにわか雨に見舞われました。
雨の降りしきる中で、「桜かり雨はふりきぬおなしくはぬるとも花のかけにやとらん」(桜を見に出かけたら雨が降り出した。同じように濡れるのなら桜の木陰で雨が止むのを待とう。)(撰集抄)と詠んで、桜の木陰にずぶぬれになりながら雨宿りしました。
その様子をみた藤原行成は、「歌は面白し。実方はをこなりとの給てけり。」(歌は良いけど、(わざわざずぶ濡れになるなんて)実方の行為は変(愚か)だよ。」と言いました。
それを聞いた行成はこのことに恨みを抱いていました。

その時の話が清涼殿の殿上(一条天皇の面前)で持ち上がり、論争になりました。
怒りが爆発した実方は笏(しゃく)を使って、行成の冠を庭に打ち捨てました。
行成は雑役に庭に打ち捨てられた冠を取らせ、かんざしを使って揃く髪を整えて反論。
その様子を見た一条天皇は、行成の行為を高く評価、逆に実方の行為には、「とりあえず歌枕(歌枕の名所観光:陸奥国のこと)にでも行って来い」と言って左遷しました。

左遷した実方は3年後、任地で突然乗っていた馬が倒れ、その下敷きになって死んでしまいます。
後日、内裏の台盤所の米がスズメに食い荒らされる事件が発生。
スズメに転生した実方の仕業であるとまことしやかに噂され、その霊を慰めるため雀塚がつくられています。

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