■ 解説
「あけぼの」はまだ日も出ていない明け方、「花盛り」は(桜が)満開である様子、「花たちばな」は現在のコウジミカンの花のことで、夏に香り高い白い花をつけることから夏の季語(ちなみに実は秋の季語です)、「夕暮さま」は夕暮れ時、「さみだれ」は五月雨、つまり梅雨、「わがよ」は自分の人生、「夜寒」は秋も終わりが近づき夜が一層寒くなった様子、「朝ぼらけ」は夜が白んで朝になりかけている状態(明け方)、「ちぎりし」は細かくとぎれとぎれになった様子、「心のあと」は心に残る(痕跡)、「思いやる」は気に掛ける(気を配る)、「あわれ」は人情、情け、愛情など、「長生殿」は唐代の離宮の一つで玄宗皇帝が楊貴妃と共に出かけたとの話が残っている場所、「ふろうもん」は不老門と書き、長命を祝う際に使われ、一般には漢代の洛陽城門(門をくぐると年がゆっくり進む(つまり老いない)と言われています)、といった意味になります。
■ この詩が詠まれた背景
この詩は雅楽の演目である越天楽に歌詞をつけたもので、「越天楽今様」と呼ばれています。
1〜4番目までは季節の様子を、最後だけ毛色が違いますが、和漢朗詠集から縁起が良いとされる「老いせぬ門(かど)」の話を取り入れたものと思われます。
■ 豆知識
作者は慈円(じえん)で、藤原忠通の子(十一男)です。
慈円の詠んだ短歌は小倉百人一首では95首目に選歌されています。
今様の形式は5,7,5,7,5,7,5,7で1コーラスを構成しており、上記の詩もそれに倣っています。
そもそも今様の意味は「現代風」であり、ブームであった平安時代末期の最新の和歌の形式でした。
後白河天皇は今様がとても好きで、後年に無くなってしまうことを惜しみ、梁塵秘抄という歌謡集を自ら選歌されまとめています。
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