冬こもり(額田王)

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冬こもり
春さり来れば 鳴かずありし 鳥も来鳴きぬ
咲かずありし 花も咲けれど
山を茂み 入りても取らず
草深み 取りても見ず
秋山の 木の葉を見ては
黄葉をば 取りてぞ偲ふ
青きをば 置きてぞ嘆く
そこし恨めし 秋山吾は 額田王

■ 訳

春が来れば、(冬の間は)鳴いていなかった鳥も鳴きにやってきます。
(冬の間は)咲いてなかった花も咲きますが、山は芽吹いた草木で青々と茂み、容易に手に取ることはできません。
また、草が深く茂り、手折るにも見つけることすら難しいと思われます。
秋の山を彩る木の葉を見るならば、(紅葉して)黄色くなった葉は(春とは違い簡単に)手に取って偲ぶことができます。
まだ(紅葉していない)青い葉は、(手元に)置いて(若く青々と茂っていた頃を思い出し)そこが小憎らしく思うので、私は秋の山の方が良いと思うのです。

■ 解説

「冬こもり(冬籠り)」は、寒い冬の間、動植物が活動をひかえること(春、張るに掛る枕詞)、「春さり来れば」は春がやってくれば、「黄葉(もみじ)」は紅葉、「そこし」はそこが(強調)、「恨めし」は憎い、をそれぞれ意味します。

■ この詩が詠まれた背景

この詩は万葉集 第一巻(16首目)に収録されています。
題に「近江大津宮御宇天皇代 天命開別天皇謚曰天智天皇」(近江大津宮で治世を行われていた天皇代 天智天皇)、「天皇詔内大臣藤原朝臣競憐春山萬花之艶秋山千葉之彩時額田王以歌判之歌」(天皇のお言葉として大臣である藤原鎌足が春の山に咲く百の花と秋の山を彩る千の紅葉を競った際、額田王が歌を詠んで判定をくだした。)とあります。

■ 豆知識

作者は額田王です。

題に藤原鎌足が登場していますが、藤原姓になったのは鎌足が亡くなる前日です。
内大臣に指名されるのも、その日の事です。
ちなみに、名字である「藤原」は地名姓です。

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