味酒(額田王)

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味酒 三輪の山
あをによし 奈良の山の 山の際に
い隠るまで 道の隈
い積もるまでに つばらにも
見つつ行かむを しばしばも
見放けむ山を 心なく
雲の 隠さふべしや 額田王

■ 訳

奈良の山間に三輪山が隠れるまで、(いくつもの曲がり道を)積み重ねるまで、(目を細めて三輪山を探しつつ)何度も見ながら、遠く(奈良の方角)を見ましたが、無情にも雲が(三輪山を)隠してしまいました。

■ 解説

「味酒(うまさけ)」は美味しいお酒、あるいは神酒(神酒をみわと読むことから三輪山に掛る枕詞)、「三輪の山」は奈良県桜井市にある山(霊峰)、「あをによし(青丹よし)」は奈良に掛る枕詞(ちなみに青丹は顔料です)、「山の際に(やまのまに)」は山の間に、「い隠る」は隠れる(「い」は接頭語)、「道の隈」は曲がり道、「つばら」はくわしい、詳らか、「しばしば」は度々、何度も、「見放けむ(みさけむ)」は遠くを見る、「心なし」は無情、をそれぞれ意味します。

上記では枕詞を訳していませんが、この詩において、「味酒」、「あをによし」が枕詞として使われるかどうかは疑問です。
この詩は後述する近江宮への遷都の際に詠まれた惜別歌に相当するものとされていますので、酒造り発祥の地として知られ、うまい酒の飲める三輪山(三諸山:実醪と書き、酒の元を指すと言われます)、美しい緑のある奈良、と詠むほうが自然な気がします。

■ この詩が詠まれた背景

この詩は万葉集 第一巻(雜歌 17首目)に収録されています。
題に「額田王下近江國時 作 歌井戸王即和歌」(額田王が近江国(現在の滋賀県)に下った時作り、井戸王がその時答えた歌)とあり、17首、18首目にはそれぞれ左注に「右二首歌山上憶良大夫類聚歌林曰 遷都近江國時 御覧三輪山御歌焉 日本書紀曰 六年丙寅春三月辛酉朔己卯遷都于近江」(山上憶良の「類聚歌林」には、右の二首は近江国に遷都する際に三輪山をご覧になられた際に詠まれた詩であり、日本書紀には六年丙寅の春三月、辛酉の朔の己卯(667年4月17日)近江大津宮に遷都したとき)と書かれています。
18首目にこの詩の補足となる反歌があり、19首目に井戸王の詩が記されています。

■ 豆知識

作者は額田王です。
17首目から19首目までが近江宮遷都時における三輪山に関する詩となっています。

■ 関連地図

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