■ 解説
「綜麻形(へそかた)」は三輪(地域名)、および紡いだ麻糸を巻いた巻物(綜麻)、「林のさきの」は林の端の、「さ野榛の(さのはりの)」は野に生えるハシバミの(ハシバミは実や皮を染料とし、現在ではジーンズなどでも使われることがあります)、「なす」は〜のように、「目につく」は見て忘れられなくなる、「吾が背」は私の愛しい人、貴方(女性から見た親しい男性)、をそれぞれ意味します。
「目につく吾が背」が誰だったのかですが、三輪山を指すように思われます。
状況としては遷都であり、別れる対象があって忘れられなくなる様子を詠んでいることから、大物主を指すのではないでしょうか。
確証はありませんが、井戸王が大物主の巫女であったのであれば、説明がつくように思われます。
■ この詩が詠まれた背景
この詩は万葉集 第一巻(雜歌 19首目)に収録されています。
前回、前々回の反歌です。
注釈に「右一首歌今案不似和歌 但舊本載于此次 故以猶載焉」(右一首(この和歌)は考えてみたが(反歌と書かれていることに)合っていない。ただし、古い書ではこのようになっている。故にここに掲載した。)とあり、西本願寺版万葉集を写本した人にとっても、違和感を感じたようです。
■ 豆知識
作者は井戸王(いのへのおおきみ)です。
宮女であったとされていますが詳細は不明です。
「綜麻形」として出てきた、普段見慣れない「綜麻」ですが、実は現在でも使用される言葉で、例えばヘソクリは「綜麻繰り」と書きます。
これは、こつこつと糸を紡ぐようにお金を貯める様子と掛けているからだそうです。
綜麻形が地名なのは古事記に出てくる三輪山の大物主に関する伝説が元となっています。
大物主の伝説に関わる地名を敢えて出した理由があるのかもしれません。
■ 関連地図
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