ちりをだに(みつね)

短歌 に関する記事

ちりをだに すゑじとぞ思ふ さきしより
いもとわがぬる とこ夏のはな みつね

■ 訳

花が咲いて以来ずっと、塵一つ乗せないよう気を付けているほど愛おしく思っているナデシコの花。
(この)ナデシコの花は妻と私が寝ている(塵一つ無い)寝室のように、(大切なものなのです)。

■ 解説

「ちりをだに」はわずかな埃さえも、「すゑじ」は置かない、「思ふ」は恋しく思う、「さきしより」は咲いてから、「いもとわがぬる」は妻と私が寝ている、「とこ夏のはな」はナデシコ(”とこ”は寝”床”と掛っています)、をそれぞれ意味します。

■ この詩が詠まれた背景

この詩は古今和歌集 第三巻(夏歌 167首目)に収録されています。
題に「となりよりとこなつの花をこひにおこせたりければ、をしみてこのうたをよみてつかはしける」(隣人が我が家で咲いたナデシコの花を譲ってほしいとやってきたのだが、譲るのが惜しくてこの詩を詠んで(隣人に)遣わした)とあります。

■ 豆知識

作者は凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)で三十六歌仙の一人、古今和歌集の撰者の一人として知られています。

この和歌に登場するナデシコの花ですが、平安時代に中国で園芸化されたセキチクが渡来してきており、この花が常夏と呼ばれていることから、セキチクの事と思われます。
当時、唐から輸入された商品は高級品の代名詞のようなものですので、花が咲いた様子を見ていただけの隣人に渡し渋る躬恒の気持ちも理解できます。

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