かすがのは(よみ人しらず)

短歌 に関する記事

かすがのは けふはなやきそ わか草の
つまもこもれり 我もこもれり よみ人しらず

■ 訳

(もう春になったけれど)春日野をどうか今日は焼かないでくれ。
妻も私も(この野に)篭っているのだから。

■ 解説

「かすがの(春日野)」は現在の奈良県春日山にある野原(歌枕)、「なやきそ(な焼きそ)」はどうか焼かないでくれ(”な〜そ”は禁止:どうか〜しないでくれ)、「わか草の(若くさの)」は”妻”、”夫”、”妹”、”新”に掛る枕詞(若草のみずみずしい様子から)、「こもれり(籠れり)」は隠れている、をそれぞれ意味します。

■ この詩が詠まれた背景

この詩は古今和歌集 第一巻(春歌上 17首目)に収録されています。
「題しらず」とあるため詳細は分かりません。

若草山の山焼きですが、現在も奈良県で行われています。
若草山全体を燃やして早春を告げる行事で、現在は鎮魂、慰霊、防災、平安を祈る行事として行われています。

■ 豆知識

「よみ人しらず」とあるため、作者は不明です。

この詩を本歌取りしたと思われる詩が伊勢物語絵巻十二段(武蔵野)に載せられています。
「むかし、をとこありけり。人のむすめをぬすみて、武蔵野へ率て行くほどに、ぬす人なりければ、国の守にからめられにけり。女をば草むらの中におきて、逃げにけり。道来る人、この野はぬす人あなりとて、火つけむとす。女、わびて、
武蔵野は けふはな焼きそ 若草の つまもこもれり 我もこもれり
とよみけるをきゝて、女をばとりて、ともに率ていにけり。」
と書かれており、ざっくり訳すと、

「昔、男がいた。人の娘をかどわかして武蔵野へ連れて行ったが、(娘を奪った)盗人であったため国守に捕まった。
(男は一緒に駆け落ちしていた)娘を草むらに隠して逃げた。道にやってきた人が、
「この野にはまだ盗人がいるようだ」といい、火をつけようとした。
女はどうしようもなくなってしまい、
「武蔵野をどうか今日は焼かないで。夫も私も(この野に)隠れているのですから。」
と詠んだのを聞いて、(国守は)娘を捉えて共に連れて行った。」
とあります。


【注釈】(阿凡堤様、ご指摘ありがとうございました。)

当サイトでは和歌を「詩」と表現していますが、本来和歌は「歌」と呼ぶべきものです。ご注意ください。
豆知識内にて「本歌取り」という言葉を使っていますが、本来本歌取りとは全体からせいぜい二句+数文字程度を使用した歌を指し、現代用語だとオマージュやリスペクトに近い歌が本歌取りです。
この歌の場合、地名以外ほとんど同じなため実質盗作に近い歌であり、「盗古歌」と呼ばれるべきものと考えられます。

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コメント

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通りすがりに拝見しました。二点、異論があります。@和歌を指して「詩」と呼んでおられますが、広義には「和歌」も「詩歌」に属しますから「詩」と呼ぶことも可能でしょうが、ここは「和歌」を素材として扱っている文脈ですから、やはり「和歌(ないしは「歌」)と呼ぶのがより適切だと思われます。 A「この詩を本歌取りしたと思われる」という記述がありますが「本歌取り」を言葉のあやとして使っておられるのかも知れませんが、やはり和歌を素材にして書かれている文章ですから「本歌取り」についても厳密な解釈の上に立って書かれるべきだと思います。この文章では「本歌取り」について誤解する読者がいるかも知れません。
Posted by 阿凡堤 at 2024年12月25日 10:50
阿凡堤様、コメントを頂きありがとうございます。
異論頂いた内容、いずれも正鵠を射た素晴らしいご指摘、本当にありがとうございました。

@についてですが、当サイトの目的が当時生きていた人の心情が和歌に残されているのではないかという当方の推論から作り始めたサイトであるため、当初から文学的イメージの強い詩という表現を使っていました。
ですが一般に和歌に属するものは歌と表現すべきですね。
ご指摘、本当にありがとうございます。

Aについてですが、本来一部しか使うべきでない本歌取りに対して、地名以外、丸々コピペ状態のこの歌を本歌取りと表現するのは確かに正しくないと思われます。
8年前に書いた記事であるため、今の私にはまったく記憶に残っていませんが、当サイトの読者は学生さんが多いため盗古歌という印象の良くない言葉を使うべきか検討した結果ということも無きにしも非ずです。
が、私は過去の私をまるで信用していないため、おそらく何も考えずに本歌取りという言葉を使ったのでしょうね。
正しく伝えられるよう、記事に注釈を書かせていただきました。ご指摘いただき、ありがとうございました。

ご指摘いただいた内容について、本来は全てのページを修正すべきだと思うのですが、当サイトはあくまで個人の趣味サイトあり、広告収入はあるもののサーバのレンタル代だけで赤字であることもあってやる気が当初ほどないこと、現在新サイトの制作に注力していることもあり、せっかくご指摘いただいても修正しきれないという現状があります。
現時点でも他にもつじつまが合っていない記事やおかしな記事がいくつかあることに気付いているのですが、全く修正できていません。

せっかく貴重なご意見を頂いたのに、十分な対応ができず申し訳ございませんが、ご理解いただければ幸いです。
Posted by waka at 2024年12月25日 23:47

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